❤️白真美玲❤️

彼女の日常はよく言えば平凡だった

悪く言えば、平坦、何も起こらない刺激の足りない日々。

何も危険な刺激を求めているわけではない

確かに、以前までは人並みの幸せ、お金を稼いで帰って来てくれる旦那さまがいて、

その人に尽くすことを望んではいたけれど、ぼーっと、何かが足らない。

釈然と前に進まない。

平凡で何も起こらないみれいの生活を変えたのは、一枚の紙切れだった。

「ポストに入ったままだったぞ」

夫は何気なくその紙をみれいに手渡す。その行動こそが、平穏を壊す一手だとは考えもせず。

「ありがとう」彼女は其れを受け取ると、一目もせずくたびれたエプロンのポケットに入れる。

見るより先にやることが山積みだからだ。

夫の帰宅にあわせて作っていた料理の盛り付け、食事を終えて片す間に風呂が沸くよう準備を進め、

其れが終わると今度は晩酌の準備。

夫が風呂から出たあたりで、晩酌用の小鉢が幾つか盛られている状態にして、漸く自分の入浴時間。

少し冷めた湯が、私たちを表しているようだと自嘲じみた、ため息を零す。

長年不妊治療を受けた彼女だったが、皮肉にも子供ができなかったのが、唯一の救いだと思っていた。

夫は望んでいたが、まるで召使のこの状況に、子供がいたら、気が狂ってしまう。

ため息ばかりが染める湯船の色を、両手でかき回す。

正直なところ、長く望み自分につらい不妊治療を受けさせていた夫に不備があると聞いたとき、

彼女の胸につかえていたものが、どこかへ飛んでいった。

病院でそのことを聞いて以来、夫は彼女を抱こうとはしない。

彼女はその間にも熟れ、危うい魅力を増しているというのに、夫は触れようともしなかった。

「ただ子供も出来ない不能な自分とお前がしたところで、意味がない。」

そう彼女が吐き捨てられた日から、一年が過ぎようとしていた。

限界だ、彼女の体はこのフラストレーションの溜まる一年で、ふとしたときに熱ってしまうようになったのだ。

どうして、貴方のために熟れる体を鎮めてくれないの?

その思いで、みれいの心がじんと濡れる、夫を嫌ってはいない彼女が今、抱いて欲しいと切に願うのは

仕方がなかった。

湯船に浸かり、体の火照りを覚ましていたみれいを、鼓膜から現実に戻すのは、扉越しに聞こえる夫の言葉だった。

「先に寝るぞ」

了解の相槌だけではなく、つい、彼女の口は思ってもない謝罪を吐き出す。

返されない返事と、ベッドで光る浮気の連絡、嫌いなわけではないはずなのに、彼女の心が動くことはなかった。

ハートマークのついた相手の連絡、きっと夫は素っ気無く面白気のない淡白な返事を返しているだろうと、

目を瞑り、彼女は夫が寝てから二時間後、夢の中へと落ちていった。

寝息を立て始めるみれいの横で、夫はゆっくりとその瞼を開き、携帯を手にする。

朝、みれいが目を覚ましたとき、既に夫は寝室から姿を消していた。

寝ぼけた頭のまま、彼女が事態に気付き走って一階のリビングに下りると、また心にもない謝罪を口に出す。

「珍しいな、お前が寝坊だなんて」

怒りもせず、夫は目を伏せたまま、鞄を手に取り、家から出て行く。

最後まで謝り続け、夫が行った後、彼女は再び何度目かのため息をつく。

昨晩普段どおり二時には寝たというのに、五時におきれなかった自分を恨んでいるのだ。

恨む必要はないことにすら、気が付かない。どうやら彼女は、冷え切った湯船に長く浸かりすぎたようだ。

「すっかり忘れてた、何だったのかしら」

昨晩渡された紙切れに手をやり、その目を見開く。

風呂の湯気で少し滲んだ同窓会の三文字、彼女の心を揺らすには充分すぎるものだった。

出席に丸をつけて、ポストに投函するまで、そう時間は掛からなかった。

みれいの体を突き動かしたのは、幹事の名前、それは男を知らない当時の彼女に、男を教え、

豊満な体に意味を持たせた男。

彼女は、この男に逢いたいと思う反面、会いたくないと思っていた。

初めての男を忘れたいはずもなかったのだが、違う、今の欲求が満たされていない状態で、

彼に逢ってしまえばもう二度と帯びている熱が引かなくなってしまうと分かっていたからだ。

紛れもなく、愛している快感を、躊躇いなく注がれてしまえば、欲に狂い善がってしまう、

自分本来の気質がまた獣のように男を求め始めてしまう。

怯え戸惑いながらもその事実に、彼女は確かに心を濡らしていた。

「みれい、珈琲!」

早く帰ってきた夫の声に濡れることはないというのに、他の男には止められないほど濡らしてしまう自分を

みれいはひどく恥じ、責め続けていた。

淹れたての珈琲の湯気越しに、夫を見つめる目が、麗しいことにも、今の彼は気付かない。

しんと静まり返ったリビングで、ただ夫への熱が移ろい始めていることに、みれいは気が付かないフリをした。

「この間の、同窓会だって」

穏やかな口調でそう咎めるような夫に、ひとつ返事を吐き、みれいは自分の温めた麦茶に口をつける。

不妊に悩まされていた頃の癖で、麦茶を作る。

もともと珈琲を飲んでいたみれいだったがカフェインが体を冷やし、妊娠しにくくなることを知った夫に言われ、

カフェインの少ない麦茶を口にするようになった。

夫は、平気で口にするというのに、みれいはその呪縛から逃れられず、セックスすらしていない今も、

珈琲が飲めない。

「行くのか?」

パソコン越しでないと、珈琲の湯気越しでないと、会話を投げない夫に「ええ」いつも以上の味気なさを返す。

「なんだその機嫌!」

夫は大きな音を立てて開いていたパソコンを閉じ、部屋から出て行った。

「ごめんなさい」

同窓会の三文字に気を取られ、夫に失礼な態度を取ってしまった。

みれいはその日、朝日が昇るまで自分をまた、責めた。

朝になれば、当の夫は覚えてすらおらず、彼女を残し会社へ行く。

みれいが会社の先にいる若い女を見透かしているなんて事にすら気が回らず、

暢気に「良い一日になりそうだ」と笑い、家を出るのだ。

いつもは外へ出て、欲求を満たせる夫を羨ましく一人慰めるばかりのみれいだが、今日は違う。

来る同窓会のためにエステを予約したのだ。

その日がやってくるまで、みれいは毎日同じ行動をした。

夫を立てて笑顔で見送り、エステや美容室、ネイルサロンなど、自分磨きに勤しんだのだ。

男に、見てもらうため。

とうとうやってきた同窓会の日、夫は緊急の出張が入り、三日ほど家を開けることになった。

「気をつけてね」

其れが、女との逃避行だって事を知っていて、みれいは朗らかに送り出す。

自分も同じ事をする罪悪感が、夫の不貞のおかげで軽減されたのだろう。

日に日に、綺麗さに磨きをかけるみれいに興味すら持たず、夫は行った。

一人になった部屋で、みれいの年齢よりずっと溌剌とした体を、大人の色香漂うドレスが包む。

大きく開いた胸元からは、むっちりとした谷間が覗き、たわわに実っている胸とは打って変わって締まった腹は、

全く年齢を感じさせない。

男を誘う尻から、深めに入ったスリットが肉付きの良い太腿を見せ、いやらしくなく色気を発する。

「ちょっと、大胆だったわ」

鏡に映る自分の豹変振りに驚きつつ、みれいは下着を器用に外していく。

大きく背中を見せるドレスのため、ヌーブラをつけるはずだったのだが、カップ数がなく、

小さいサイズでは零れてしまいそうだったため、下着を纏わず着ることにしたのだ。

幸い生地も分厚く、見た感じ下着を着けていないとはわからなかったが、

何も纏っていない胸の頂は、生地が擦れるたび快楽を背に流した。

「た、たえられるかしら」息を荒げ、呼吸の合間に短い嬌声が入るみれいだったが、

いつの間にか着替えている時間もなく。

最大限自分の魅力を引き立たせるドレスを大きめのコートで隠し、同窓会の会場まで急いだ。

「ごめんなさい、遅れちゃった」

会場へ入ると、皆各々が再会を楽しんでおり、二十代の頃の全員でわいわいという雰囲気は失せていた。

少し落胆し、みれいが友人とその人を探していると「みれい」知らない声がその耳に跳ねた。

「久しぶり!いやあ、相変わらず綺麗だねえ」

みれいの華奢な腰を抱き、男はその耳元で唸るように話を続ける。どうやら彼は既に出来上がっているようだった。

いえ、私なんて」

酒の匂い漂う顔から逃れるため、顔を背けている彼女に対して、男はかまわず顔を近づける。

「ぃや、やめて」

じりじりと手の位置を上げていく男にはっきり拒否を示せず、下唇を噛み、肩を震わせる

その手がとうとう胸の頂まで届き、男が驚きの声を上げたところで「みれい」聞きなれた声が震える耳にはじけた。

男を振り払い、声の主の方へ駆けていく。

「久しぶり」

一目で分かってしまった。

彼女が長年会いたくて、会いたくなくて、焦がされていた人物。

彼は、みれいの知っているまま、歳を取っていても彼女の知っている綺麗な顔は変わっていなかった。

彼に逢うと、どうなってしまうのか案じていた彼女だったが、案の定、みれいの唇は素直に彼を迎えてしまう。

皆、各々が楽しんでいる故か、大胆に唇を重ねても、だれも声を上げはしなかった。

二人の間に長く、リップ音がまどろむ。

「元気だったみたいだね」

「あなたも」

みれいは長い睫毛の合間から、伏し目がちに彼を見つめる。濡れた瞳が、無意識に優しく彼の雄を誘う。

「みれいは本当綺麗に誘うよな」

先刻の男と同じように、彼はみれいの耳元で話す。だが、不思議とその大きな胸に不安は募っていない。

寧ろ彼女の肩から首元にかけて、自分の頭を預けるようにする彼に、胸が鳴るばかりだった。

彼は、少し笑うとみれいの腕を優しく掴み「出ようか」ただ一言、それだけを言う。

たったそれだけのことに、堪らなく疼き、みれいの豊かな双丘の頂点が、激しく主張を始める

ホテルに着くと、二人は初めての子供のように性急に口付けを交わす、何度も角度を変え、

味わうようなキスをする。

「限界」淡いドレスを脱がせ、現れたのは桃色に尖らせびんびんに男を誘ういやらしい乳首

彼がそれに口付けると、小さくみれいの腰が揺れる。

「ふ、っ」

甘噛みするだけで、背が跳ねる。

彼は甲高い声でなくみれいの反応を楽しむように、柔く弾力のある白い肌に痕を残していく。

赤い痕が裂く度、みれいの腰がもの欲しそうに振れ疼く。

首筋を辿って、柔らかい唇を噛み、深く口付けると、みれいの瞳は既に蕩け始めていた。

「私だけ、きもちいの、や」

息を荒げ、みれいは彼のズボンに手を触れ、チャックを下ろし、いきり立つ肉棒に愛おしそうな表情でキスをする。

ちゅ、ちゅ、子供のような音を立てて固く尖る彼の欲望に舌を這わせる。

根本から先端まで形の良い唇が這い、舌先で止まらない先走りと自身の唾液を絡ませていく。

頭の底から痺れるような快感を舌先から感じ、みれいは卑猥な音を立てる自分の唇に赤く頬を染める。

気持ちよくて、どうにかなっちゃいそう。

上擦った声と、唇が離れるリップ音が自分のものではないと拒むため耳を塞ごうと、

みれいは自分の耳に手をやるが、その行動は彼の一回り大きな手に覆われて、阻まれる。

彼に抱かれる左手の、薬指にある焼けていない部分を無意識に隠す、罪悪感を指と一緒に隠したのだ。

彼を喜ばせるためにする行為全てが、みれいの体の奥深くを熱く滾らせる。

収まりきらない彼の肉欲を、濡らした上目で頬張り、顔が少し歪む。

やわらかく熱された舌が、肉棒の裏を撫でるように這い、彼女の頭がゆっくり上下する。

じゅぽ、じゅっ、じゅる、じゅ、じゅぽ、ぢゅるるる。

卑猥極まりない音が二人の鼓膜を連動してゆっくり、犯していく。

下に構えた心が、二人の間から、部屋中に広がっていく。

形の良い頬が膨らみ、下睫毛はしっとり水滴が沈んでいる、目元から下に淡く赤色づき、挑発的に男を誘う。

「はあ、はっ、」

彼の切ない声は、昔より一層深く、みれいの上下する頭とともに揺れる豊かな胸は、昔より一層強く。

ただ二人の間に二十年近く、ずっと変わらないのは、互いを向く熱視線。

じりじり眼を焦がしている熱い恋慕は、体だけではないと、みれいの頬にたった一筋、細く涙が流れる。

彼の声が切羽詰ったような、上擦ったものに変わると、彼は必ず彼女の体をはがそうとする。

漫画のように、口内で、なんて無粋なものは男の恥と思っている性分だと。

知っているみれいは、頑として動きをやめない。

「みれい、もういい、離せ」

中性的な話し方をする普段と違う、彼の本心は硬派で少し俺様的な、此れなのだろう。

「やめ、ろ」

結婚前、彼女が今の夫の話し方に胸を焦がしたのは、彼のこの繕っていない本心が好きだったからだろう。

そう思って、また、みれいは自責の念に駆られる。

それじゃあ、まるで、夫を彼の代わりとしているようではないか。

「っ、」

低く唸るような声とともに、彼がみれいの口内に吐精する。

重たい白濁が、頬では足りず口端から溢れ、顔と胸を汚す。

「悪い」

人当たりの良い人間という仮面を取り払った本当の彼が、二十数年ぶりに、漸く彼女の前に現れる。

「俺もされてばっかじゃ嫌なんだけど」

みれいの肩を掴み、真っ白のシーツに倒す。

黒く艶やかな髪が、白に映え、またそれが欲情を呼ぶ。

残されていた布に、広がる染みが出来ていた。

「あんまり、見ないで」

恥ずかしそうに、顔全体を赤らめみれいは足を動かす。

閉じようとする太腿を開き、脱がせたものを足に引っ掛けたまま彼はみれいの其処に口付ける。

「ん、ああぁめ、て。やぁ」

ビクビク腰を跳ねさせながら、彼女は甲高く鳴く。

シーツを汚す己の液体に、恥辱の表情でみれいは彼を見つめる。

奥で疼く穢れた欲望を、抑えきれず彼女は鳴く。

「挿れて、欲しいのっ、んんっ、貴方のでめちゃくちゃに突いてっ」

言い慣れないフレーズに、何の涙か分からない水が彼女の瞳を濡らす。

あてがわれた固いものに、みれいの背には、戦慄にも似た震えるほどの、快感の兆しが流れる。

粘膜の打つ音が、純潔をまた汚していく。

「んぅ、ひあぁ」

ぬぷり。

ゆっくり挿入された彼の肉欲で鳴る音に、彼女は耳まで赤らめ酷く恥じる。

そんな様子も他所に、みれいの中、奥深く、子宮口に接吻を遂げて、満足したように

ずるり抜けたと思えば、勢い良く背をなぞり体中を突き抜けるオーガズムの片鱗。

ずちゅ、じゅっ、じゅぽ、ちゅぷ、じゅぷぷ、水音がすれば次は、ぱん、ぱん、ぱちゅん、ぱん

肌が打ち合う性急な音が部屋を満たす。

音に連動して、豊かに実った胸がたゆんと振れる。

「相変わらず、お前ん中、処女みたいに締め付けてくる」

荒く息をすることしか出来ない彼女に、いつになく雄の顔を浮かべる彼はその言葉たちをどろりと耳へ流す。

暫く達していなかったみれいにとって、絶頂は古ぼけた感覚に近い、未体験の頃の感覚に近いといえるだろう。

ズン、ズンズンズン、ズンズン、ズンズンズンズンズンズン

狂ったように突き上げが止まない、狂ったように喘ぎが止まらない、互いに性に狂わされようとしている。

びくびくとせり上がってくる逃れられない快楽の波を恐れるように、赤子のように、みれいは彼に手を伸ばす。

彼も同じく本能で彼女を愛しく思い、抱きしめる。

「ぁっ、ああ、んっ!だめ、いくっ」

切なくて堪らない、乱される快感の凪から逃れるべく、いつの間にか彼女の腰は無意識に上下を始めていた。

規則正しい腰の動きから、いつしか乱雑に獣の如く変わってゆき、二人は互いの凹凸を抱きしめて確かめ合い

「んあ、っふっあぁああぁ、あっ、ああぁあぁぁっ」

上下する身に全てを委ね、其処にある悦楽をむさぼり続ける。

口からは既に、漏れ出し流れる、止まらない嬌声がみれいの体を汚していた。

ギシギシギシギシ、少し古いベッドが鳴く。

迫りくる射精感、今にも達しそうな彼の頭は、彼女を孕ませたい。

彼女の体内に自分の子種を植え付けてやりたい、男の性。

雄の本能がうずき続けていた。

其れを悟ったかのように、彼女は少し首を横に振る。

「して、」

理性が動かした拒否とは別に、言語組織は、彼女の声は本心を写していた

「んんんっ、ぃうっ!!!!あぁぁ、」

がくがくと体を揺らし、彼女はちかちか白む視界でぎりぎりの意識を保つ

ぱん、ぱん、ギシギシ、じゅっ、ズポッズポ

みれいがいくら悦に浸っていようとお構い無しに、止まない中のエクスタシー。

恍惚とした表情を刹那に浮かべた彼女の、顔が一気に変わる。

「いいっ、いった、ばっかりなのっ、やぁっ、やっ」

徐々に降りてくる子宮の入り口、彼を迎えようとしているかのようで、また一層腰の抜き挿れを早める。

「ぁんはうぅ、っう、んんあぁ、!やっ、ん!なんか、くるっ、やぁ、なんかでちゃいそ、う!!

らめ、やぁらあっ!」

「このまま、出せっ」彼女の喘ぎと合わせてピストンも激しく、深く。

子宮の入り口に肉欲の先がめり込んだ瞬間、白濁とした液体が中へ注がれる。

「んんぁぁぁあああぁあぁあああああぁぁぁっっ」

ぷちゅっ

彼の体にしがみついたまま、ガクガクガク頭を揺らし、口端からは唾液が滴る。

体内に放たれる彼の子種、熱いものがみれいの腹部に広がる。

早漏ではない彼が、みれいに限って早く達してしまうのは、視覚的な影響もあるだろう。

頭の先から、爪の先まで、男の欲望を掻き立てる彼女のフォルム

凛として、セックス自体に恥じらいを持っていそうなみれいの美しい顔が、

いやらしく乱れ、整った瞳が快楽の涙に濡れ、形の良い口が淫語を零す

ぞくぞくと首元に走る彼女の魅力

余韻が引かない、何度でも熱が舞い戻り、二人の体を乗っ取る

獣のように互いを欲し、互いを弄る。

昂ぶる鼓動が、肉体を支配し、頭で考えるより早く二人はもう一度、深く愛し合う。

どこまで口付けようと無くなりそうもない唇で数える感情の数は、

夫との会話で冷え切った心を嘘のように温めていく。

ベッドの軋む音、肌を打つ音、リップ音、愛撫の音、枯れたみれいの愛を簡単にもとの潤いへと還してゆく。

心も体も、同時に二つを満たされると、女性というのはどういうものか、まだ見ぬ快感を求め、

エクスタシーを求め、狂っていくらしい

「もっと、もっと」

箍が外れ、壊れたように求め続けるみれいと、同じくして彼もみれいを激しく求める。

「い……くっ、」

ぱんぱんぱんぱん

激しい突き入れで、ぶつかっていた肌の音が、一層間隔を詰め

彼は彼女の足を掴み、深く、突きあげる

「あぁぁぁぁぁあああ」

叫び声にも似た嬌声が、口から漏れ、みれいの豊満な胸がふるふる震える

どぴゅり

みれいの中に入りきらなかった白濁が、彼女の太腿を伝い、シーツを汚す。

声も枯れ、全ての欲を吐ききった二人は浅く呼吸を繰り返したまま、深い夢の中へと引き込まれていった。

ふわふわと夢の中を漂っていたみれいを現実に突き落としたのは、うるさい程の着信音

「はい」

寝ぼけた頭で隣のぬくもりに触れる

誰かのぬくもりを感じたのは、久しぶりだった。

「寝てたのか」

受話器越しに聞こえる夫の声は、彼女の体温を簡単にマイナスへと誘っていく

「ごめんなさい」

あきれたようなため息が電波に乗って彼女の頬を打つ

「いや、謝らせてる自分に辟易としただけだ、すまない」

夫の言葉に、彼女の背筋が凍る、ずっと夫は自分に辟易としていると思っていた、

それを理由に夫を嫌えば自分の罪が軽くなる

分かっていたから不貞行為を行えたというのに、全て事成した今

彼女を襲うのは、圧倒的な背徳感と罪悪感

止まらない自己嫌悪が、眩暈まで呼ぶ

「予定よりずっと早く帰られそうなんだ、だから食事にでも、行かないか」

彼女はずっと忘れていた

夫が口下手であること

それから昨日は何度目かの結婚記念日であったこと。

「ええ、勿論、よ」

少し唇が震えた。

「じゃあ、着いたら連絡する」

「ええ。気をつけてね」

夫があの日、みれいに行くのか聞いた理由は、結婚記念日だったからだ

ずっとみれいの携帯が鳴っていたのは、一言でも話そうと思っていたからだ

彼女は分かっていた、夫のことだから律儀に早く仕事を終わらせてきたのだろう、と

そこまで分かっていて何故、今になって気が付いてしまうんだろう

「みれい」

先ほどまで心地よかった温もりにまたほだされてしまいそうな体の疼きを、彼女は必死に堪え

「私、夫が帰ってくるから帰るわ。ごめんなさい」

「やっぱり結婚してたんだ」

何もしていない薬指に触れると、彼は楽しそうに言う

「俺も」

お互いにしてんなら、後腐れないね

どこか寂しげにそう続け、帰り支度をするみれいの体を、後ろから抱きしめる。

行為中は気が付かなかったが、彼の薬指に痛いくらいの反射がある。

「もう、連絡はしないわ」

コートを着て、すぱりと断言し、下唇を甘噛みしながら部屋の扉に手を掛ける。

「ホテル代は要らないよ、ただみれいには俺が必要だと思う」

彼女は悔やみきれないほどの後悔をした

奥底に眠る彼のおぞましさ、一度触れればそのまま腕を絡め取られてしまいそうな、

抜けることのない純粋な恋慕

会いたくなかったのは、この底知れない恋慕に嵌ってしまう恐怖があるからだったというのに、

欲に溺れ、情事に溺れてしまった。

まだ体を帯びている熱が、怖く思えて仕方がなかった。

初めて彼と体を重ね男の味を覚えた日、遠い昔のことが脳裏を過ぎる

彼と会えない時間みれいは男を欲し、逢える日は彼に抱かれる、ほかに何もしない廃れた日々を送っていた。

恐いのは、恐怖感も焦燥感もなにもかも全て、彼に抱かれている間忘れていられた

抱かれていない間だけ、じんじんとした火傷のような、張り裂けそうな痛みが、身を焦がす

その火が怖くて、また男を欲す。

「ふう」

白く濁った息が、みれいの体に帯びていた熱と淡い子供のような幻想を覚ましてゆく

もう二度と、会わないようにしよう

決意は固く、理性で鎮火できるよう、必死に努める。

朝焼けの寂しさが胸を打つ、夫の声ばかりが脳内に響いて、彼の声と自分の喜びをかき消そうとしている。

夫が帰宅する前に、みれいは家へ帰り、自分を犯す熱より、熱いシャワーを浴びる

体に帯びる熱を引き剥がし、夫の温みを入れられるよう

中の吐精を指で掻き出す

一緒になって甲高い声が漏れ出る

耳を覆いたくなる自分の声を、口を、手で塞ぎ零れ落ちる涙を堪える

生理的なものに混じって、みれいの感情も流れ落ちていく

並々ならぬ背徳感が脳を侵食していく、麻痺してはだめだと自分を律し、下唇を噛む。

「みれいー」

ばたばたと足音がせわしく動き、みれいのいる風呂前で止まり、夫の声が風呂場の中まで響く

「アナタ?おかえりなさい」

冷水で顔を冷やしてすぐに、彼女は風呂場の扉から顔をひょいと覗く

夫はその顔を見ると安堵の表情を浮かべ「入浴中だったか、すまない」彼とは違う話し方

だけどどこか似ている目元をみて、彼女は恐くなった。

自分が夫に惹かれていた理由に触れた、彼も既婚者なのに、互いに罪を犯した

だけどそれ以上に、夫の表情を見て、彼を重ね体を濡らしている自分に恐くなったのだ。

震える体に追い討ちの如く、夫はいつも以上の優しさを見せる。

「ここに着替え置いておくから」そういって、去っていった夫の後、

みれいは其れを手に取り驚きのあまり少したじろぐ。

置いてあったのは、彼女の体に合わせて作った完全オーダーメイドの淡いドレス

露出しすぎず、隠しすぎない、大人の風格漂うドレスが、みれいの頭を揺らした。

ざわざわと意味も分からず、胸が震えた

其れに袖を通す前に、洗面台で髪型を整え、化粧を施す

肌触りの良い生地に腕を通すと少しバストがきつく、再び髪を整える。

夫は普段より少し品質の良いスーツを纏っており、洗面所から出てきたみれいを見ると複雑な顔をして笑う

また、彼女の胸がざわざわと鳴る。

「行こうか」

手入れの行き届いた外車に乗り込み、当たり前に、助手席に座る。

こんなとき、普通の主婦なら憧れていたシーンだ、などと舞い上がるのだろうか

みれいは至って平凡だった

よく考えれば、状況は平凡なのだ。アイテムがほかより高級だということ以外

初めは確かにみれいも喜んでいた、だが隠しているものに気が付けば、

誰であろうといつかこの幸せに平凡の烙印を押すだろう。

夫は何かを言おうとして、口をつぐむ、彼女は当然に気が付かないフリをして移り変わる外の景色を眺める

気が付かないほうが、幸せだろう。

また、胸がざわざわと騒ぐ。

車を停め、階段を上る際、夫はみれいに手を差し出す

「あぶなっかしい」

そう言い、みれいから視線をずらした。

「あら、ありがとうございます」

喜んでいるフリをして、階段を上る、その姿は正しく理想の夫婦

みれいも、夫も、理想の夫婦のフリをしている。

エレベーターの間も、席についても、人がはけるまでは理想のフリを続け、

人が姿を消せばすぐに何も話さなくなってしまう

家では指図、外ではフリ、一体なんの罰なのだろう

ネガティブな考えが彼女を捕らえ始める

自分自身でも其れに気が付いたみれいは、とても喜んでいるフリをした。

注文も終わり、ウェイターも失せ、幾十分流れたことだろう

メインを食し終えた頃、漸く夫は彼女に思いもよらぬ言葉をかける

「別の病院を見つけたから、また不妊治療がんばってくれないか」

ざわざわ胸を騒がせていた逆撫でていた正体が骨格を現す。

震える唇で「がんばるのは、アナタじゃ」言いかけたことの端を、夫の咳払いが上塗りをする。

容易に心を凍てつかせる、鋭い眼光で、みれいを萎縮させる

「あんな病院じゃない、もっとちゃんとしたところだ。もう予約したから、

頼むから子供みたいに駄々をこねないでくれ」

どの目線で、頼んでいるのよ

何度私にフリをさせたら気が済むのよ

何度私を別の人間に重ねたら気が済むのよ

ドレスと食事なんかで機嫌取ろうとしているのばればれよ

さっきから私をなんて呼び間違っているの

さっきから私に誰を重ねてみているの

ほかで子供が出来たんでしょう、知ってるわ私、だから自分に非がないと思い直したのね

それともそっちの女の人に言いくるめられたのかしら

私を疑う前に、その女の人を疑ってほしいわ

子供みたいってなによ、それはアナタじゃない

どれだけ自分を立てて欲しいの

本当はずっと前からその女の人に気付いていたのよ

もう、いい加減にしてください

私はアナタの人形じゃない、私は出産マシーンじゃない

私はアナタのお母さんの代わりじゃないのよ

何の生産性もないと分かっている憤りが、ふつふつ体に沸く。

言い返したいのに、動かない自分の口を酷く恨む

怒りたいのに、へらへら笑っている自分の表情筋を憎む

あまりに酷なフラストレーションが身を焦がす中、唇を噛み、

その後も彼女を置き去りに続く出産マシーン扱いのトークは、吐き気を催すまでになった

絶えかねたみれいがお手洗いにたつと、去り際聞こえたのは夫のため息と、周りの羨望の瞳

狂いそうな怒り、憤怒、追い詰められすぎて、もう何者かわからない感情はやがて彼女の中で

欲望へと変貌を遂げていった。

夫のことなんてどうでもいい、彼にむちゃくちゃにされたい、雑に犯されたい

化粧室に出所もわからない喜びが漂う

幸いほかに利用者はいなかったが、みれい自身を辱めるには充分すぎる材料だった。

軽い火照りは、段々と子宮を濡らし始める。

体の心が激しく疼く、触れてもらいたい、帯びている熱が止まらない

もう誰でもいい、誰かに疼きを鎮めて欲しくて仕方がなくなる

もし此処で自ら弄ってしまうと、止まらなくなることが目に見えていた。

わけも分からない熱が彼女の頬をいい色へ染めてゆく

化粧室から出てきたみれいを目にして尚、夫は触れようとすらしない。

それどころか、一連の料理を食し終えると、さっさと帰路についてしまう

疼きは時間を重ねるごとに増し、家に着く直前は車の振動で絶頂しそうになるほどだった。

息も絶え絶えの中、彼女が必死に家事を行っているとタイミングよく夫は出て行った、

不倫相手が連絡をしたらしい

みれいへの機嫌取りはこれで充分だとでも思っているのだろうか、だとするのなら、投げやりにも程がある。

だが、今回ばかりは助かったような気分だった

このまま家事を行っていれば、数秒で爆発してしまう

気が付くとみれいは、絶対に連絡しないと誓った男へ鳴らしていた

「変わっていないのね」

連絡先の欄に残っていた番号へ鳴らして、一コールがながれてすぐ、彼の声が電波越しに伝わってくる。

「お互いにな。俺が必要?」

いやにシンとした部屋の中で、真っ赤に耳まで赤らめ

「ええ、この間あんなこと言って、都合がいいのは分かっているんだけれど」

みれいが黙るまで、彼は沈黙を貫いた、誰かのように重ねて言端を消したりしない

「みれいの口から聞きたいんだけどな」

人懐っこいようで、意地悪な声に、笑っているんだわとみれいの羞恥やら恥辱がくすぐられる

それすら、愛おしく思えてならない

この人が、俗に言う二番目の人ならば、あのまま結婚できたのだろうか

戻りたくないと願っていた場所まで落ちていることに、みれいはもう気付けない

彼の毒牙に嵌っている事すら気付けない

彼の術中に自分がいることにすら気がつかない

いつの間にか、みれいの視界には彼しかいなくなっていた

長く暮らしてきた夫の姿さえ、彼の色に塗りつぶされ、彼を重ねてみる他無くなっていたのだ。

皮肉なことに、本来の自分すら見失っても尚、みれいは彼の放つ強烈な快感を求めた

用法を守れず、彼女は優良なドラッグを違法なまでに昂ぶらせてしまった。

「夫は相手にしてくれないの」

愚痴のようにすらりと零れた本心を彼は笑わず、受け止める

「みれいに触れず生活できることが凄いよ」

自分なら無理だと笑う声ですら、彼女は感じてしまう

そして切羽詰ったみれいが出す「あなたに触れて欲しい」切ない声に、彼の携帯を握る手に力がこもる。

「俺も、みれいに触れたい」

何があったのかは互いに聞かない、触れ合えば感情が、全て痛いばかりに伝わってくる

性も何も知らない幼子のように、二人は手を重ねる

大きさの違うしわの増えた手を重ね

そして歳を取ったと、少し笑う。その姿はとてもこれからセックスをする大人とは思えない

性処理対象や、出産マシーンではない、正しく恋愛対象。

胸に沸く愛おしい想いを、堪えきれず彼女は禁忌を犯す

「貴方がすき。」

既婚者同士が心まで想い合って慕ってはいけないのだと、

それは不倫という罪なのだと、メディアに教育されてきているというのに

重ねていた唇の合間から、彼が息を呑んだ音だけ、部屋を渡る。

瞑っていた目を開いたが、彼女の視界は開かない

「俺も、みれいを愛おしく思うよ」

顔赤いから見ないで、初めて耳にする彼の恥じる声

柄にもなくキザなこと言った、抱きしめられたまま、彼女の頬に彼の声がぽつりと落ちる

「いつもキザよ」

少し離れて、目を合わせると、引き寄せられるようにキスをした。

大人でも、子供でもない、二人だけの口付けを交わし、心にわく感情の名前に気が付いたら、また一寸笑う

初めてのような強気さはない、二人はどちらも悩みを抱える既婚者だ

強気さなんて持ち合わせているはずがない、もし持っているとするのなら臆病さくらいなものだろう

あれは若さゆえの強気さなのかもしれないが、今二人に必要なのは、大人の器用さではなく、強気さだ

二人のハッピーエンドには、もうその道しか残されていない。

「愛してる」首筋に隠蔽出来ない痕をつける彼の首筋に彼女は噛み付く

「私も」色気のない歯型が彼の首にしっかり刻まれ、互いに退路を断つ。

それくらいしなければ、二人は強気さを取り戻せないのだ

キスする力より強く抱きしめ、みれいのはだけている服を少しずつ剥いていく。

「ん、いや。綺麗じゃないの、電気つけないで

艶っぽい吐息が彼の鼻先を掠める

「だめ、今晩だけは片時も見過ごしたくないんだよ」

挑発的な上目遣いが、返って彼のエスを擽る

足の先から、頭のてっぺんまで、視姦するが如く見つめ

みれいの白くハリのある肌に、ゆっくりと口付けを落としていく

何か性感帯に触れているわけでもないのに、彼女の体はじんじんと濡れてゆく。

夫に感じた感情とは間逆の、愛おしく熱い情の炎

みれいの息が少し荒く、彼女の足が閉じられたとき

彼はその太腿を掴み、股を開かせる。

そこには既に、シーツに染みを作るほどの愛液が流れていた

脳内を襲う羞恥から顔を背けるみれいに、彼は意地悪く、その指で水音を立てる

ぴちゃ、ぴちゃ

音を立てる度に、彼女の秘壷はヒクつき、だらだらと汁があふれ出している

ごつごつと節張った彼の指が、みれいの中へひとつ、進入していく

「ひ、んっ

体を捩り、エクスタシーに悶える

甲高い嬌声を受け、彼が微笑みつつ、みれいの肉付きの程よい太腿に何度も口付ける

「ぁあんっっ!」

彼だけが知っている彼女のどこよりも弱い場所、内腿に口付けるだけで、

みれいは声を堪えきれなくなってしまう

やめてと彼の後ろ髪を引くみれいの手を、布団に縫いつけ、その唇に噛み付く

どちらのものか分からない唾液がみれいの唇を汚し、彼はその姿に激しく欲情する

みれいの手を自分のそそり立つものへやり、耳元で低く「俺のも気持ちよくして」彼が低く唸る。

たどたどしく彼の熱くドクドク脈打つものを愛撫する、その間にも彼はみれいへの愛撫をやめない

びくびくびく、背中を駆け回り、内臓を擽って脳に悦びを刻む。

「あぁぁあ、んんっ、あぁぁぁぁああ、」

逃れられない悦楽の渦中にいながら、彼女はそれでも彼の欲望を擦る

前走りがみれいのしなやかな手指を、てらてらと光らせる

指が震えている中でさえ、みれいはいやらしく彼の裏筋を擦る

「も、むりイっちゃう、」

先に音を上げたのは、みれいの方で、其れを合図にずぶりと滾ったものが突き入れられる

ぬぷ、ぬぷり

ゆっくり奥まで入れられた彼の熱い塊が、みれいの中に喜ぶかのように、強く反りさらに彼女を喘がせる

擦る度、勃起する彼の太い肉欲に、彼女は演技ではない色っぽい表情を浮かべ、悦に浸る

「ああぁぁぁぁあああんんっ、っ」

ぱんぱん、ぱんぱんぱんぱんぱんぱん、ぱん

肌を打つ音が、不規則に刻まれ、みれいの喘ぎも一緒に漏れ出す

ぬるぬるとして、ヒダの一つ一つが吸い付いてくるような彼女の中に、彼は喉を鳴らす

彼女もまた、自分の中でどんどん大きさを増していく威圧感と、

自分の感じる場所をタイミングよく擦ってくる彼のものに、善がりながら感動すら覚えていた

心地よく淫らに、彼のものはみれいの中をかき乱す

互いに、これ以上ない極上のセックス相手だった

ぴちゃぴちゅ、ずちゅ、ぴちゅ

ずぼずぼと抜き挿しされる肉棒を欲し、彼女の腰はその淫靡な声とともに、揺れる

「あ、ぁぁ、ふっ、っふ」

荒い息に混じって、喘ぎが漏れる。

形のよい乳房が、上下に揺れて、彼の陽物を猥りがわしく誘う

歳に似合わぬ桃色のつんと勃った乳首が、彼の腹辺りに擦れ、さらに悦楽を呼ぶ

中で蠢く勃起が、自分の子宮口に当たりみれいは断末魔に近い嬌声を上げる

「めっ、あ!だめぇっ!壊れちゃ、ううっ!!」

角度を変えて何度も子宮口に彼の先端が接吻を交わらせる

気が狂いそうなピストンが、みれいの脳を犯していく

既婚者の背徳感も、いつの間にか消えていた

それ以上に快楽が、脳内をびちょびちょに犯していた。

「やぁっ、んっ!めえっイクっ、!」

びくんびくんとみれいの腰がはねると、彼も彼女の中に白濁とした欲望を吐き出す

一滴も溢さぬように、みれいは彼の首に腕を巻く

彼もみれいを抱きしめ、二人は確かにある愛情を抱きしめた。

愛おしさは、着実にパートナーへの恐怖心をかき消し始めていた。

どんなことになっても、彼の隣にはみれいが

みれいの隣には彼がいる

二人は学生の頃抱かなかったそんな強い気持ちが芽生えていた。

「あいしてる」

みれいは歯が浮くような、彼のきざな台詞も、心地よくすら感じていた

彼のぬくもりがあれば、どんなことも、できるような気がしていた

彼と別れ、家に帰る刹那、夫への恐怖が薬指に走った

それでもみれいは外したままの指輪をポケットに残したまま、扉を引いた

「遅かったな」

玄関で待っていた、女物の香水の香りがべっとりとついた夫に抱きしめられ、目の前の景色がぐらりと歪む

「やめてください」

みれいの方から拒絶をみせるのは、初めてだった

「悪かった、確かにここでする行為じゃないな」

夫はみれいの声など聞こえないかのように、彼女の腕を強引に掴み、ベッドまで連れて行く

乱暴にベッドへ投げられ、みれいは漸く自分が今何をされているのかに気付く

「やめてっ、やめて!やめてって言ってるじゃないっ!!」

夫の体を引き剥がし、みれいはベッドの引き出しに丁度しまってあった離婚届と、

ポケットにあった指輪を夫へ投げる

「その香水の女性の代わりに抱かれるなんて、我慢ならないわ」

声を荒げ、書いてくださいと迫るみれいの手を掴み

夫は「いいのか」まるでみれいが縛っていたかのような責め方をする。

「理由はお前の不妊と、不貞でいいんだよな」

脳を強く打たれる感覚に見舞われ、全身の血が沸騰した

ここでヒステリックに怒鳴りちらせられるのなら、それでこの気持ちを拭えるのなら、どれほど楽だったろう

まるで心までレイプされているような気分だった

全て貴方のことじゃない

そう内に湧く感情をぶちまけられたなら、それほど。

が、残念なことに彼女は一方的な怒りを起こすにはあまりに、歳を取りすぎた。

「それは貴方も、同じじゃない」

小さく言った、その一言が彼女の出来うる精一杯だった。

長年受けた小さな恐怖は、いつの間にか彼女の口を封じてしまうほどのものに変わっていたらしい。

「俺は」

彼女の言葉で、夫が言葉を詰まらせるのはこれが初めてだった

自分の言うことに何も口を出さない妻

自分の身勝手な怒りにも、何も言わずずっと堪えてきた妻

夫の中で固まっていた彼女の姿が崩れたのだ

「俺は」

何の表情かわからない、初めての顔をした夫は、みれいの手を取り、再びベッドへと倒す

首筋に落とされる口付けも、一度は愛を誓ったはずなのに

みれいには愛おしく思えなかった

「私は」

夫が自分の服を剥く中で、冷静に言葉を紡ぐ

「ずっと、貴方の言うとおりにしてきた、貴方の身勝手な怒りにも、身勝手な態度にも堪えてきたわ」

けれど、と言葉は、夫の愛撫の中、続く

「それで幸せになれると、思っていたけれど、違うわ」

みれいは伸ばされた夫の手を取る

「それじゃあ私も貴方も、つらいだけよ」

夫が何故自分と結婚しているのか、彼に出会う前、夫の浮気に気付いたみれいは

一度だけ、考えたことがあった。

夫は、自分の両親にも、みれいの両親にも良い顔をしていたいのだ

あくまで、離婚はみれいの身勝手で、という事にしておきたかったのだ

「今までは貴方の身勝手で、苦しめられたもの。今度は貴方が、私の身勝手で、苦しんでください。」

夫の体をもう一度、今度はやんわりと剥がし、頭を下げる

「好きな人が出来たの」

最後まで、みれいは夫を立てておきたかったのだ

誰かを重ねていたとはいえ、一度は愛した、夫を。

「気が失せた」

それだけ言い残し、寝室から出て行った夫の背中を見てほっとしたのか、

みれいはそのままだらしなく化粧を落とさないまま眠りに落ちてしまった

朝、目が覚めるといたはずのリビングにも、どこにも、夫の姿は亡くなっていた

ただひとつ、判を押された離婚届と、「悪かった」一言だけ書かれた手紙が置かれていた。

恐怖からか、喜びからか、はたまた愛情からか、どこからか分からない感情とともに、溢れてくる

途方も無く、行く宛を失った涙は、一筋だけ彼女の頬に残し

部屋には流れることのなかったメロディーが流れた

家にいる間、耳障りだからマナーにしておけと怒る人はもう居ない

「もしもし」

耳に当てた携帯からは愛しい感情を呼ぶ、彼の声がした

思えば彼は初恋ではなかったのかも知れない

彼に恋する前に、みれいは涙を流すほど、夫を確かに愛していたのだから。

だとするのなら、初恋ではない彼となら、幸せを築けるのかも知れない

いつの世も、初恋相手とは、結ばれないものだ。

「今から、行くわ」

決心揺るがぬ表情で、みれいは光差し込む扉から、長らく過ごした家を出た。

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